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The Stories on "Devils & Dust" (pt.1)

本国アメリカでは昨日(火曜)発売になったブルース・スプリングスティーンのニュー・アルバム『デヴィルズ&ダスト』。今日の午後には日本の輸入盤店にも並んでいました。
日本盤発売は連休明けの5月11日になります。DVDの方に字幕を入れる作業などのために、当初目標にしていた連休前の発売はかないませんでした。ただし、米国盤のデュアル・ディスク(片面CD/片面DVD)という新しいソフトが、たぶんカーステの大半、ラジカセの一部でかからない可能性が高いということなので、心配な方はやはりCDとDVDが2枚組の日本盤を待った方がよろしいでしょう。

今回も日本盤のライナーノーツを書かせていただきましたが、3月中旬に締め切りにせかされて短い時間で書いたので、その時点では収録曲全部について解説する文章は書けませんでした。その後じっくりと収録曲12曲を解読しまして、ソニーの資料のために新たに文章を書きましたが、一般のファンの方々はその文章を目にする機会が少なさそうなので、ここにそれを基にした曲解説をアップしておきます。
ブルースの物語歌は実にうまく構築されている見事な作品ばかりなのですが、行間を読ませるところも多く、日本人には訳詩を読んでもなお分かりにくいところがあると思います。少しでも理解の助けになれば幸いです。

1. Devils & Dust
アルバムの幕を開ける表題曲はイラク戦争開戦の時期に書かれたもの。ブルースは「その表題は(アルバムの)すべての曲へのメタファーとして機能する。自分の悪魔と格闘している人びとの個々の物語のね」と語っているが、この曲で内なる悪魔と闘うのはイラクの戦場にいる兵士で、神が自分の側にいると信じ、自分の行為が常に正義であれと願う普通の米国の若者である。そんな彼も死の恐怖にさらされる戦場で生き延びるためには、銃の引き金を引かねばならない。この歌はそんな彼の抱える心のジレンマを描いているのだが、それは同時に現在の米国社会のジレンマでもあろう。主人公をアメリカという国に置き換えて聴けば、「恐怖は力の強いもの」であり、それが「神に満たされた魂を悪魔と砂ぼこりで満たしてしまう」という繰り返しは、同時多発テロが米国民に植え付けた「恐怖」を利用して政策を進めてきたブッシュ政権への疑問とも解釈できるし、「生き延びるための行為が愛するものを殺してしまったらどうしよう」という一節は、対テロ戦争を口実に市民的自由の基本的人権に制限をかけようとする政府への批判とも受け取れる。

2. All The Way Home
元々は盟友サウスサイド・ジョニーの91年のアルバム『ベター・デイズ』に提供した曲。そのときはソウル・バラード調の作品だったが、ここでは歌詞を少し手直し、異なったメロディーを付けて、アップテンポのカントリー・ロック・ナンバーに改作してしまっている。バツイチの女性にもう一度恋愛に踏み出す勇気を促す求愛の歌で、内容的には『トンネル・オヴ・ラヴ』の〈タファー・ザン・ザ・レスト〉によく似ている。
ところで、ケリー候補をあれだけ熱心に支援したあげくのブッシュ再選に、やはりブルースはすごく落ち込んだ時期を過ごしたそうだが、この曲の冒頭の「全世界が見つめるところで失敗したときの気分がどんなものか、僕も知っているよ」という行は、そんな彼の心境にも聞こえる。

3. Reno
曲名になっているネヴァダ州リノは「リトル・ラスヴェガス」とも呼ばれる歓楽の街で、売春が合法化されている。この曲ではメキシコからの出稼ぎ労働者と思われる男が売春婦と寝るが、彼の空虚な心の救いにはならない。売春婦の性行為の写実的な描写に驚く人もいるだろうが、そのおかげで中間部での別れた恋人と過ごした故郷の牧歌的風景の回想との対比が一層鮮やかになっている。

4. Long Time Comin'
この曲は『トム・ジョード』ツアーで既に歌われていた。本作の中で最も賛歌的なロック曲に近い作品。新天地まで旅をしてきて、3人目の子供の誕生間近な男が、「おまえの罪がおまえ自身のものであるように」と親が犯した過ちによって不幸になることのないように息子の将来を祈り、「今度はドジを踏まないぞ」(fuck it upと初めてFワードを使っている)と再出発を期しての決意が歌われる。

5. Black Cowboys
モット・ヘイヴンはNYのブロンクス区にある町。ストリート・ギャングの抗争で多くの若者の命が失われる地域だが、主人公の少年は愛情豊かな母の言いつけを守って、いつも学校からまっすぐ家に帰ってくる。そんな彼は本で読んだ黒人カウボーイに憧れていた。やがて母はドラッグディーラーの男と暮らすようになり、ドラッグに溺れていく。少年はそんな生活に見切りをつけ、男の金の一部を盗んで、本で夢見た西部へ旅立つ。都会のゲットーの現実と西部への夢を対比させたところがユニークな曲だ。

6. Maria's Bed
苦難に満ちた人生を送ってきた主人公がマリアのベッドに救済を見つける。恋人のベッドといえば、セックスを交わす場所であるが、ここでは聖母と同じ名前の女性のベッドだけあって、そこで「爽やかな水を飲んだ」り、鉛の羽根のために空から落ちてきたのを「そこがバラの花園のおかげで救われた」り、そこでは聖者の言う光よりも「輝く光で照らされる」など、そこが聖なる場所ともとれるイメージが次々と登場する。女性の愛情の聖と性の両面を賛美する曲と言えよう。

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