The Stories on "Devils & Dust" (pt.2)
7. Silver Palomino
ブルースが言う「西部、田舎の風景が舞台になっている」曲のひとつ。パロミーノは体が黄金色でたてがみと尾が銀白色の馬である。13歳のときに初めて見かけ、野生馬の捕獲に長けた地元の者もロープをかけられなかったという銀色のパロミーノは、最初は若い主人公にとっての自由や可能性の広がる未来の象徴として用いられているのだろうが、旱魃が彼の家族を襲った夏に母親が亡くなってからは、つかまえられない馬がもう会えない母に重ね合わされる。
8. Jesus Was an Only Son
ブルース風ゴスペルとでも呼べる美しい曲だが、ここではイエス・キリストを神の子ではなく、母親マリアの愛する一人の息子として歌っている。ブルース自身が3人の子供の親である体験が書かせたようだが、その視点によって、このアルバムの中でキリストは苦闘して生きた人間として、他の曲の登場人物と同格に扱われる。
9. Leah
リアという女性と一緒に家を建て、人生を共に歩んで生きたいと歌うが、「より高いところ」「愛の音だけが聞こえる世界」という表現は天国をイメージさせるものでもある。このリアという名前はアズベリー・パークにある行きつけの店のウェイトレスの名前を借りたそうだが、聖書ではヤコブの最初の妻の名前であるし、ロイ・オービスンに同名のヒット曲(62年)もあった。
10. The Hitter
これも『トム・ジョード』ツアーで披露されていた曲。ブルースのストーリーテラーとしての語り口のうまさが特に冴えわたり、物語にぐいぐいと引き込まれてしまう作品だ。生きていくためなら八百長も辞さない賭け試合専門の流れ者ボクサーが、久しぶりに家に戻ってきて、母親に語りかける設定で半生を振り返る。まるで短編小説のような見事な作品である。
11. All I'm Thinkin' About
「俺が思っているのはおまえのことだけ」と歌う軽快なラヴ・ソングだが、歌の背景には南部の田舎の風景が用いられている。ブルースが全編ファルセットで歌うのは、99年の映画『リンボ』の主題歌〈リフト・ミー・アップ〉以来のこと。
12. Matamoras Banks
『トム・ジョード』アルバムの主要なテーマにもなっていたメキシコから不法入国する出稼ぎ労働者たちの悲劇的な物語のひとつ。マタモラスはメキシコ東北部にある港町で、合衆国とメキシコとの国境をなすリオ・グランデ川の河口にある。曲の出だしで2日間川に浮かんで流されてきた死体が登場するが、それはより良い暮らしを求めてメキシコ側から合衆国に密入国しようとしてリオ・グランデで溺れた男の死体である。ブルースはその死体の流れを逆に辿って物語を語り、彼が泳いで渡ろうとしたテキサス州ブラウンズヴィルを向こうに見る反対側の川岸、そしてそこへ至るまでに越えてきた砂漠を経て、恋人との思い出にまで至る。この話を遡るという手法が、悲惨な物語を悲惨なままで終わらさず、希望を感じさせる余韻を残すことに成功しているわけだ。こうしたブルースのソングライティングの見事な技巧を是非ともじっくりと味わってほしい。
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